五重塔 伽藍と境内
深山幽谷に囲まれた室生の地は、古来幽邃な聖地と仰がれておりましたが、奈良時代の末期、この聖なる地で山部親王(後の桓武天皇)のご病気平癒の祈願が五人の高徳な僧によって行われ、これが卓効のあったことから、勅命によって国家の為に創建されたのが室生寺であります。
以来室生寺は山林修行の寺院として、また法相・真言・天台の高僧たちによる各宗兼学の道場として日本仏教の一翼を担い、独特の仏教文化を形成するとともに、また数多くの優れた仏教美術を継承してまいりました。
こうした経緯をへて、室生寺は格式高い真言密教の道場として信仰を集め、また女人の参詣を許された真言寺院『女人高野』として親しまれるとともに、四季それぞれの大自然に優しく調和した伽藍は、女人高野の名に相応しい清々しさを永く伝えて参りました。ところが痛ましくも平成十年九月、奈良地方を襲った台風七号の強風はこの幽邃な聖地にも及び、倒壊した巨木の一つが、室生寺最古の建造物である五重塔に著しい損傷を与えました。室生寺のシンボルとも言うべきこの塔の損傷は痛痒極まりなく、各方面の方々にも多大な御心痛を煩わすこととなりましたことは、まことに遺憾にたえません。しかし幸いにも、政府、文化庁を始め、日頃から当寺にお心を寄せていただいております皆様方に、思いもかけぬ多大な御助力を得、今日ここに旧にも増して見事な塔として復興することが出来ましたのは、ひとえに多くの方々の真心の賜物と、衷心より感謝致します。